3万人のうちの一人

3年ほど前のある夜の出来事。当時の家の近くには、交通量の多い幹線道路を跨ぐ細い橋がある。車一台しか通れないその橋は、険しい谷を跨ぐために作られ、路面まで30メートルほどの落差のある比較的に高い橋だが、冬の兆しを感じながら、私が渡っていると両側にある高いフェンスの外側に人の気配が見えた。近づいてみると小柄ながら誰かが猫のようにフェンスにしがみついている姿があった。手を離せば一瞬で落下し、何台もの車にはねられて、確実に死ぬ。私はその人のいる場所までゆっくりと近づき、静かな声で話かけてみた。しかし、返事が全くない。その人の顔が見えなかったが、声をかけてみると少し動いたので、聞いているだろうと判断し、話を続けた。何を言えば良いのか分からないまま、話し続けた。誰かが相手にしてくれている間、極端な決断をしないだろうと信じ、ひたすら話しを続けた。10分以上経った時、その人が突然動き出し、猫のようにフェンスを一気に駆け上り、内側に降りて、小さな体を震えながら私のところに走りしがみついた。話を聞くと、彼氏にふられたため生きる気力を失ったとか。16歳の少女。毎日のように新聞やテレビで報道されている現実は、私の目の前に起きたので、自殺は最早他人事ではないと痛感。数字としては「3万人以上」と年々伝えられているが、その数字の実態とは、失恋した少女、商売に失敗した中年男性、熟年離婚の経験者、家庭内暴力に耐えきれなかった妻など。一人一人には顔と名前、人格と夢があり、決してただの数字ではない。人を救うのは、やはり一人ずつだ。

2012 年 10 月 31 日31. 10月 2012 by JonDugan
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